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晩夏の海月
あの海もわたしの海ではない。海はただ、海なのだ。
わたしたちは、きっと、同じ夕立を見ていた。:本の感想『夕立』
 サークル「謂はぬ色」梔子花さんの『夕立』を拝読しました。

夕立

 梔子花さんの作品を、私は「酒アンソロジー 生きは酔々」所収の「梅酒」のお話だけ拝読したことがありました(あ、あとブログの小説も少し読みました。)
 比較的平易な文章で登場人物の心情が丁寧に綴られているという印象で、読んでいてしんと静かな気持ちになる、それでいて出てくる人たちの心の揺れがしっかりと感じられる書き手さんというイメージです。

 『夕立』の主人公のミホちゃんは、高校二年生。進路に悩み、自分のやりたいこととは何か、考えるのに少しだけ疲れてしまい、夏休み、現実逃避のように親戚の「瑠衣ちゃん」の家を訪れます。
 そこで出会う、これまで出会ったことのない人や価値観に触れ、少しずつ彼女の心が解きほぐされていく過程が丁寧に綴られています。
 仕事の話あり、淡い恋ありの、ある種王道ストレートな“少女の成長譚”ともいえる物語。
 ミホちゃんだけでなく、あっけらかんとした「瑠衣ちゃん」も仕事で悩んだときがあり、憧れの男の子として描かれる「洋輔」もまた、知的障がいをもつ兄の「きょうだい」としての自分に葛藤している。
 周囲の人たちの抱える悩みや不安定さもしっかりと描かれており、いろいろな観点から味わうことのできる小説でした。ほかの人たちの悩みにも触れたからこそ、ミホちゃんは成長できたのかも、と私は思いました。

 あまり多くを語るとネタバレになってしまいそうですが、もう少しだけ。
 私がとくに秀逸だなと思ったのは、瑠衣ちゃんの仕事場である、障がいのある方たちの就労施設の描写です。もうね、本ッ当にリアルなんです!
 私自身が、その昔に知的障がいをもつ方たちが暮らすケアホームでアルバイトしたことがありまして、作業所(当時は「授産施設」と言っていた)にもたまにボランティアに行ったりしていたんです。その光景がハッキリと蘇り、そうそう、そんな感じだった!と頷きながら読みました。
 障がいの症状だから仕方ないんですけど、結構デリカシーのないこと、平気でしたり言われたりするんですよね、利用者さんたち・・・。(笑)
 ミホちゃんの戸惑いや、それでも、少しずつその場を知っていこうとする姿などが、うら若かった私自身の姿と重なり、グッと物語に入り込みました。

 これまでの日常とは違うひと夏を過ごし、ミホちゃんが自分の「やりがい」や「進路」にどのような答えを出したのか・・・
 それは物語を読んでいただきたいのですが、心にさわやかな、まさに「夕立」のあとのようなやさしい風を残す一冊でした。

 
 さて、ここから先、少し自作についての(伴の小説)話が入ります。おまえの話など興味がないわッ!という方は、ブラウザバック推奨。
 以前に私が書いた小説に、『ウーパールーパーに関する考察』というのがあります。もう絶版になっているんですけど、この小説、梔子花さんの『夕立』とすごく共通点が多かったのです。
 その小説の主人公は高校一年生の「ゆき」ちゃんと言うのですが、彼女は本当に根暗で不器用で生きづらくて、お友達もほとんどいないし、お母さんにも「のろま」と言われてしまう。(すみません、ここは共通点ではないです。ミホちゃんはもっと明るいししっかりしとります・・・。)
 そんな彼女が、新しいアルバイトや、あこがれの人との出会いを始めとする新たな人間関係を通して、少しだけ成長したりしなかったりするお話でした。
 枠組みとしては王道かなと思うのですが、彼女のアルバイト先は知的障がい者のケアホーム(書いたときにはアルバイト経験がだいぶ役立ちました)であり、そして、あこがれの図書館司書・麻生さんは知的障がいをもつお兄さんを支援しながらも、別の世界を求めて図書館で働いていたりしました。
 だから『夕立』を読んだとき、なんだか、「初めて会った人だけど、同じ経験を共有できる人に出会った」みたいな、わあ!という喜びが大きかったのです。

 もちろん、どっちかが真似したとかでは断じてありませんし、小説としてのディテールはまったく違います。
 主人公や周囲の人たちが選んでいく道も違う。その違うところも含めて、私は『夕立』を読んだとき、本当に嬉しかったです。(大事なことなので二度)
 私があのとき考えていたこと、書きたかったテーマを、同じように、小説に登場させようと思ったひとがいたんだなあ、とか。ゆきちゃんが、いつか何かの縁あってミホちゃんに出会うようなことがあれば、二人はいい友達になれるのではないか(年齢も一個しか違わないし・・・大きなお世話ですが・・・)とか。
 なんだか、同志を見つけたような心持ちになってしまったのでした。

 おそらく梔子花さんはウーパールーパーをお読みになっていないでしょうし、小説を書く人にとって「○○に似ている」と言われることは屈辱的なことであろうと思うので、これは書くかどうかすごく悩んだのですが・・・すごく嬉しかったので書いてしまいました。ごめんなさい。
 もし、梔子花さんご自身がこの感想を読んでくださることがあれば、どうか、前向きに捉えていただけるとありがたいなと思います。そして、いつかお会いしたときには、『夕立』についてや、そのテーマとなったものごとについて、お話する機会があれば幸いに思います。(あれ、私信・・・)

 梔子花さんの作品は、同じイベントで『先生、ごめんなさい。』も購入させていただき、既に読み終えているのですが、長くなりましたので、そちらの感想は改めて。

本当に長くてごめんなさい!
ではまた。
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[2018/11/02 17:04] | 読書の話 | コメント(0) |
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伴美砂都

Author:伴美砂都
伴美砂都です。
つばめ綺譚社所属。
ロゼット文庫主宰。
小説を書いています。
森豆子は知人の司書です。

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