FC2ブログ
晩夏の海月
時折半透明になりながら、ぽちぽち物書きしています。
Twitter企画SS:相談室のけろりん
あけましておめでとうございます!

新年初書きは、もう忘れ去られているであろうタグ企画です(笑)
本当に遅筆で申し訳ないです!
たとえご本人の記憶の彼方であろうと、ちゃんと、全員分書かせていただきますので・・・。

ということで、企画SS第二弾の4人目、お名前は「けろり」さんです。
私はいつも「けろりん」と呼んでいるので、そちらを使わせていただきました!
ありがとうございました♪



相談室のけろりん


校門の両脇には、こんもりと丸いつつじの植木がある。
昨日、この町では珍しく雪が降ったから、こんもりの上に白いクッションのような雪がうっすらと残っている。
8時25分、わたしは校門を通る。
ずんと重くなる空気。もちろんつつじに罪はない。
本当は7時45分にみんな登校することになっているから、今はもう誰もいない。
誰もいないことを確認してから、そこを通る。

昇降口を通って、図書室の前を通って、二階へ上がる。
図書室には司書のおばさんがいて、ドアのガラス越しに目が合うと、会釈してくれる。
けれど、見つかりたくないから、少し離れて通る。

普通に、みんなと同じように、学校へ通えていたのはいつまでだっただろうか。
いつからだったか、わたしは教室へ入れなくなった。
相談室だったら、という提案は、そのときの保健室の先生から、わたしのお母さんへなされた。
保健室の先生は、白髪でふくよかな年配の、優しい先生だった。
その先生は定年で退職したけれど、わたしは「相談室の子」として、次の先生へ引き継がれた。

相談室は、校舎の二階の一番端にある。
狭い部屋で、真ん中に少し大きめの机と、椅子がいくつか置かれている。
ドアを開けたとき、直接机のところが見えないような角度で、仕切りのようなものがある。
壁には棚とロッカーがあり、いつから置かれているのかわからないいろいろなものが埃をかぶっている。
仕切りにぶつからないようにそうっと通って、ひとつの椅子にランドセルを置く。
もうひとつの、座るところがピンク色をしている椅子に座る。

ピンク色の椅子に座って、わたしは、おはよう、けろりん、と挨拶をする。
けろりん、というのは、棚に置かれているかえるのぬいぐるみだ。
わたしが相談室に通い始めた当初から、ずっといる。
ちょうどわたしがいつも座る場所から、正面の少し上のところにいる。
黄緑色の、タオルのような布でできていて、背中を凭れさせれば座るようなつくり。
丸い目と、笑った形の口が縫い取られている。
身体も、首に巻かれた青いリボンも、ずいぶん色が褪せてきているように思えた。
けろりん、という名前は、私が勝手につけた。

おはよう、けろりん。
そうして、わたしの「学校生活」の、一日が始まる。


相談室に通い始めたころは、お母さんと一緒に毎日学校に来た。
・・・いや、本当は、5年生になった今でも、ときどき。

玄関先でぐずぐず泣くわたしに、一緒に行こうか、と言ってくれるときのお母さんの顔は、笑っているけど悲しそうだ。


コンコン、とドアがノックされ、わたしの身体はびくんとする。
入ってきたのは担任の須藤先生だった。
おはよう、調子はどうかな、と、明るい声。
もちろん、先生は教室に行かなければいけないから、ここで授業をするわけではない。
持ってきたプリントとドリルの今日やるところを指示して、じゃあ、また来るからな、と、明るい声。
で、先生は出て行った。
早速ドリルを開こうと上げた手に、血が滲んでいることに気が付く。
爪の横にできたささくれを、知らないうちに机の下で、もう片方の手の爪でひっかいていたみたいだった。

先生は、いつもこうやってプリントやドリルを持ってきてくれる。
そして、いつもわたしに尋ねる。
野村、調子はどうだ?
わたしは曖昧に頷いて、へらっと笑う。

先生は、授業の合間に、ときどき相談室を尋ねてきてくれる。
そして、ときどきわたしに尋ねる。
野村、給食だけでも教室で食べてみないか?
わたしは首を横に振る。
野村、次の時間な全校集会なんだ、ゲームだけでも一緒にやってみないか?
わたしは、首を横に振る。

どんなにわたしが首を横に振ろうと、先生はときどきわたしに尋ねる。
みんなと一緒に何かするという提案に、わたしが頷くことを先生がどんなに望んでいるか、
わたしが教室に行くことがどんなに望まれているか、
それでも、わたしは曖昧にでも頷くことができない。


ドリルは、いつもどおり4時間目が終わるまでにはやり終えてしまった。
言われた範囲の最後の一字を書き終えて、よっし、と小さく声を出してみる。
でも、たぶん、早いわけではない。
みんなは、教室にいるみんなは、先生の話を聞く時間や、体育の授業をしているから、わたしが偉いわけではない。

わたしは立って棚のところへ行く。
けろりん、と、そっと声をかけた。
けろりんは、何も言わない。
時計を見る。今は、授業中だから、誰も来ないと思う。
それを確認してから、けろりんを机のところに連れてくる。

けろりん、本読もう。
そう言って、市立図書館で借りて持ってきた本をランドセルから出す。
ドリルとプリントをやり終えてしまったら、あとは帰るまでずっと、本を読むか自由帳に絵を描くか、折り紙とかをして過ごすのが毎日のことだった。
けろりんを机の上に座らせて、一緒に本を覗きこむような姿勢にして、ページをめくる。
今読んでいるのは、シャーロック・ホームズ。
お父さんも、小さいころ読んでいたんだと言っていた。

ねえ、けろりん、本おもしろいね。
けろりんは答えない。
笑っている。

けろりんは、いつも笑っている。
けろりんは、わたしの言うことに反対しない。でも、
けろりんは、頷かない。
調子はどうだ?という、先生の問いに、もしわたしが、頷かなかったら、先生はどう思うかな。
どうも、思わないのかもしれない。
本当はだれも、わたしのことなんて、気にしていないのかもしれない。

少しだけ、人と意見が違って、ちがうよ、と言われたこと。
それが悲しくて、嫌われたかと思ってしまったこと。
嫌われるのがこわくて、意見が言えなくなってしまったこと。
何にでも曖昧に笑って頷いていたら、いつのまにか、一人ぼっちになっていたこと。
それも、全部、気にしなかったらよかったこと、それだけのことなのかもしれない。

教室の自分の席に座っていると感じる冷たい視線も、
体育の授業でだれかとペアになりなさいと言われると同時にわたしの周りだけ下がる温度も、
校門を通るととたんに重たくなる空気も、
全部、全部、気のせいなのかもしれない。


窓の外をふっと見ると、またはらはらと雪が舞っていた。
もうすぐ、5年生が終わる。
そうしたら、6年生になって、次は中学生になり、いつか、大人になる。

黄緑色の褪せた身体に、ぽふんと顔をくっつける。
少し埃っぽい、どこかなつかしいような匂い。
この身体は、前にここにいただれかの涙も吸ったろうか。

ねえ、けろりん、わたしは、ちゃんと大人になれるんだろうか。


〈了〉
スポンサーサイト

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

[2015/01/03 01:33] | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) |
<<直前告知!2/1コミティア111 | ホーム | イベントご報告と、『金魚』完売のお知らせなど>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバック URL
http://kurage3310x.blog.fc2.com/tb.php/106-40ce1de7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
ご訪問有難うございます。

プロフィール

伴美砂都

Author:伴美砂都
つばめ綺譚社の伴美砂都です。
小説を書いています。
どうぞよろしくお願いいたします。

twitter:
つばめ綺譚社@TsubameKitan
わたし@misatovan

小説通販 渡り鳥販売:
つばめ綺譚社通販
ピコ通販様

最新記事

カテゴリ

リンク

このブログをリンクに追加する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最新コメント

検索フォーム

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR