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晩夏の海月
時折半透明になりながら、ぽちぽち物書きしています。
Twitter企画SS:夢を待つ人
ツイッターのお名前拝借タグ、第二弾の2人目です!
お名前は、「タイムさん」です。
2回目の参加ありがとうございます!(*^_^*)
1回目とは全然別のお話です。書き方も少し変えてみた挑戦作(やりたい放題とも言う?!)です。
広い心で見ていただければと存じます・・・。

※またもや長いですよ・・・。

夢を待つ人


~第一幕~

薄暗い照明。カウンターだけの狭い店内。コーヒーミル。カウンターの中に老婆。
古びたドアベルが鳴り、扉が開く。

「いらっしゃい」
「……」

スーツ姿の若い女性。戸惑うような表情で入ってくる。一番奥の席へ。

沈黙。

「……あの、メニューは」
「うちはコーヒーしかないんだ」
「あ、そうなんですか」
「ブレンドかアメリカン」
「あ、じゃあ、アメリカンで」

老婆、コーヒーを挽き始める。
女性、落ち着かない様子でそわそわする。

「……あの、何か食べるものは」
「ないね」
「そう……ですか」
「食事したいなら別の店に行きな」
「……いえ」

沈黙。コーヒーを挽く音だけが響く。
女性、鞄から書類を取り出し眺めるが、少し読んですぐ仕舞う。
膝に乗せた鞄を何度か開けて覗き、閉めては開けを繰り返してから、腰を浮かせる。

「あの、すみません、お手洗いは」

老婆、コーヒーを淹れながら、顔を上げ皺だらけの指で指す。

「奥だよ」
「すみません」
「持ち込みは遠慮願ってるよ」
「え」

女性、顔を真っ赤にし、浮かせた腰を戻して座る。落ち着かなげにそわそわ。

「トイレはいいのかい」
「……」
「さっきも言ったろ、何か食べたいなら別の店に行きな」
「……いえ」
「遠慮するこたないんだよ、今時サンドイッチの一つも置かないものぐさな店さ、どう考えたってこっちのサービスが悪かろう」
「……いえ」
「そうかね」

老婆、女性の前にコーヒーを置く。女性、俯いたまま。
老婆の嗄れ声、意地悪に響く。

「腹が減ってるんじゃないのかい」
「……いえ」
「何か食べたいんじゃないのかい」
「……いえ、食べたくないんです」
「……」
「何も、食べたく、ないんです」

女性、思い詰めた表情。老婆、どっこいしょとカウンター内の椅子に腰掛け、煙草に火を点ける。

「そうなのかい、そんなに健康そうで、食欲旺盛じゃないかい」
「……これ以上、太ったら、スーツが入らなくなるんです」
「入んなきゃ着なけりゃいい」

女性、背中を丸め、小刻みに震え出す。コーヒーはまだ手付かずのまま、そこにある。

「……就職活動をしているんです」

老婆、黙って煙草をふかす。細く固く節くれだった指。女性、一人で話し始める。

「就職活動をしているんです、去年からずっと、でも、決まらないんです、どこも、書類選考か、一次面接で落ちてしまって、第一志望だった会社は、二次面接までいったのに、お祈りメール、お祈りってわかりますか、不採用のことです、今後の健闘と健康を祈られるんです、不採用なのに祈られるんです、それで、お祈りメールがきて、落ちました、落ちてしまって、反対に友達はどんどん決まっていって、そのうちに、お腹がいつも減るようになったんです、朝ご飯を家族の三倍以上食べて出かけても、面接の前にはお腹が減ってたまらなくて、公園でパンを食べてから行くんです、昨日はコンビニでもちもちチーズパン五個入り、チョコスナックパン三本入り、クリームチーズベリーパン、ふんわりおいしいバターロール、その四種類を買って食べました、食べ終わるとお腹がぱんぱんで苦しくて、それでも十分足らずの面接が終わるとまた何か食べたくてコンビニに行ってしまって、吐きそうになりながら家に帰ったら台所にあるお菓子を次から次へ食べてしまって、ここ最近はずっとそんな風ですごく太ってしまったんです、スーツもズボンもきつくなってしまって、顔もまん丸ですごく醜いです、痩せたくてダイエットしようと考えても、食べたくて食べたくて、一度、もう親にお菓子は買わないで、残りものも置かないでって頼んだんです、今日は家にこもってコンビニにも行かないって決めて、でも、でも、親が少し出掛けた隙に台所に行って、気づいたら小麦粉と砂糖の袋が目の前にあったんです、小麦粉と、一キロ入りの砂糖を半分、その場で食べてたんです、もう食べたくないです、何も食べたくない、太りたくない、これ以上醜くなりたくないんです、でも食べたくて、食べたくて、食べたいんです、止まらないんです、親は知りません、でも太ったって言われて、友達にも笑われてるような気がするんです、面接官にも、太ってたら採用されないかもしれない、もう食べたくないです、わからないんです、どうやったら、ちゃんと就職できるのか、普通のごはんで、大量じゃない普通の量のごはんでお腹いっぱいになれるのか、痩せて醜くなくなれるのか、わかんないけど、なりたいんです、ちゃんと就職しなきゃいけないんです、将来の夢が何かとかもうわからなくて、第二志望の業界も第三志望の業界も落ちてしまってもう手当たり次第受けていて、でもとりあえず痩せなきゃ、痩せ、痩せたい、痩せたいんです、痩せたい、い、いいいい、いいいいい!」

女性、カウンターに突っ伏す。カップが倒れ、コーヒーが溢れて広がる。しばらく、ヒステリックな泣き声だけが響く。

「……あたしゃアンタの将来の夢ってやつが叶おうが何だろうが知ったこっちゃないし、まず就職活動ってもんが何なのかさッぱりわからんのだけどね」

老婆の声がさっきより大きい。女性、嗚咽しながらも顔を上げる。カウンター越し、すぐ目の前に、醜いが眼光鋭い皺くちゃの老婆の顔。女性、一瞬ビクッとする。

「アンタはちゃんと病院へ行きな」
「……」
「アンタは病気だ」
「……いっ、」
「小麦粉そのまま食うなんて正気の沙汰じゃないよ、戦後じゃあるまいし」
「……いっ、いっ」
「病気を自力で治せると勘違いするやつぁ早死にするんだ」
「……いっ、いっ、いっ」
「アンタのせいじゃない、病気ってのぁ誰でも突然なるもんさ」

女性、糸が切れたようにまた泣き出す。
老婆、もう一度コーヒーを挽き始める。


暗転。


~幕間~

路地裏。行き交う人々の足。看板、「喫茶待夢」。歩みを止める人はいない。


~第二幕~

ガランガランとやかましくドアベルが鳴る。
喫茶待夢の狭い店内、カウンターの中には老婆。
中年のサラリーマンらしき数人が大声で話しながら入ってくる。

サラリーマン、五人。カウンターに椅子は四つしかない。しかしどやどやと座り、一番後に入ってきた男性が取り残される。

「あれ、椅子足りないですか」
「山本さん、立ちで大丈夫っすよね」

笑い声。山本と呼ばれた、一番後に入ってきた男性、曖昧に笑って頷く。

「ばーさん、補助椅子かなんかないの」

既に座っているサラリーマンその1が大声で言う。
静観していた老婆、どっこいしょと立ち上がり、パイプ椅子をフロアに出して戻る。

「注文は」

アイスコーヒー、僕も、とサラリーマンたち。

「うちはホットだけだよ」

老婆、新聞を広げながら、にべもない。

「なんだ、サービスわりいなあ」

苛立つサラリーマンその2。山本と呼ばれた男性が、まあまあ、と諌めようとする。

「山本さんはあれっすよね、ホットじゃないと腹痛くなるから」

どっと笑い声。山本と呼ばれた男性、曖昧な表情で笑っていたが、突如表情を曇らせ、下腹部を押さえる。

「……す、すみません、トイレは」

またかよ、と誰かの声。笑い声。山本と呼ばれた男性、老婆の指さした方へ、必死の形相で行く。

「こないだ、会議中にもらしたんすよ、山本さん」
「嘘だろおい」

笑い声。意地悪な笑い。
老婆、新聞を畳んで立ち上がる。

「うっるさいねえ、ラジオが聞こえやしない」

大きな声。一瞬しんとする。

「注文しないならどっか行きな、まったく大の大人が寄ってたかって笑い者を作って馬鹿みたいだよ、その口で自分のぼっちゃん嬢ちゃんに、弱いものいじめは悪いなんて言ってんじゃないだろうねえ?」

嘲笑するような老婆の声。目も口を大きく見開き、かっかっかっか、と笑う。
サラリーマンたち、老婆の迫力にビクッと気圧されたあと、気まずそうに目を逸らす。
出ましょうか、こんな店、と誰からともなく言い、ぞろぞろと出て行く。老婆、しっしっという感じで片手を振る。

間。

山本と呼ばれた男性、ハンカチで手を拭きつつ戻ってくる。誰もいないことに驚いたような表情。

「あれ」
「皆さんお帰りだよ」
「すみません」
「何がすまないんだい」
「あ、いや、騒がしくて……」
「アンタが騒がしいわけじゃなかろう」
「あ、はあ、すみません、その、お手洗いも……」
「便所でクソして何が悪いってんだい、そのためにあるんだよ」
「はあ……」
「どうする、あんたも帰るのかい」
「……えっと……」

老婆、新聞をガサガサ言わせながら。

「見たところ、待ってんのはアンタみたいだけどねえ」

男性には聞こえなかった模様。男性、少し迷った末、カウンター席に腰掛ける。

「注文は」
「……あ、えっと、アメリカンで」

老婆、コーヒーを挽きはじめる。男性、テーブルの上で組んだ自分の手を見ながら、ぽつりと言う。

「過敏性大腸症候群なんです」

老婆、無言。男性、話しはじめる。

「緊張したり、ストレスを感じたりすると、下痢をするんです……最初は、通勤電車の中で、お腹が痛くなって途中下車してしまって、何か変なものを食べたかなと思っていたんですが、それが毎日続くようになって……それから、電車はもちろん、打ち合わせ、会議、プレゼン、大事な場面では必ずお腹が痛くなるようになってしまって。心療内科に通っていますが、やはり緊張すると症状が出てしまって、そのうち仕事にも身が入らなくなってきてしまって……」

老婆、呆れたように。

「だからってさっきみたいな奴らに言われたい放題言われるこたぁないだろう」
「……いえ、本当に、仕事では迷惑かけてばかりなんです……でも、そう思えば思うほど、腹痛もひどくなって……
 本当は、会社勤め、性に合ってないんです。昔から、存在感が無くて、そのくせいじめられてばかりいました……本当は、僕、夢があるんです。会社辞めて、父のやってる陶芸の工房を継ぎたいっていう、夢が……でも、工房は正直、経済的には苦しい状況で、父自身ももう閉めてしまおうかと言っているぐらいなんです、僕が後を継いだとしても、立て直せるかどうかはわからない。……息子、まだ中学生なんです、まだまだこれからで、とても家族にそんなこと……
 それに、息子、僕に似ていじめられるタイプらしくて、今年、まだ一度も学校に行けてない、最近はもう部屋にこもってばかりなんです。僕、言えなくて、出てこいって、学校に行けよって、頑張れよって、僕も同じだったから、言ってやれなくて……駄目な父親なんです、僕がこんなだから、息子もいじめられる……すいません、いきなり、こんな話……」

男性、項垂れる。老婆、心底不思議そうな顔。

「あのさあ、アンタ、あたしは学校なんて小学校ぐらいしかまともに出てないから知らないけどさ、逆なんじゃないのかい」
「え?」
「不登校の子どもに出てこい学校行けって無理強いする方がダメな親父じゃないのかい?」
「え……えっと」
「いじめられる遺伝子かなんか知らないけどね、同じだからこそわかってやるのがいい父親ってもんじゃないのかい」
「あ……」

男性、目からウロコが落ちたような表情。

「そ、そうですね、そうかもしれません……すみません」
「すぐ謝んじゃないよイライラするねえ」
「す、すみ……あ、えっと……」
「電話、鳴ってんじゃないのかい」

男性、慌ててポケットから二つ折りの携帯を取り出し、フリップを開ける。
画面を見た男性の顔、嬉しそうに泣き笑いの顔になる。

「妻からです!息子、部屋から出てきたそうです!」
「そうかい」
「あ、息子からもメール……えっ……“お父さん、見守ってくれてありがとう。僕、できるだけ頑張って学校行くから、それでちゃんと就職して家計を助けるから、お父さんも身体治して、夢叶えなよ”……っ!」

男性、ボロボロと涙。コーヒーカップをがしっと掴み、ゴクゴクと飲み干す。背広の袖で涙と鼻水を拭い、立ち上がる。

「すいま……いえ!ありがとうございました!」

男性、来たときとは全く違う、軽やかな足取りで店を出て行く。ドアベルが鳴る。


暗転。


~幕間~

路地裏。行き交う人々の足。看板、「喫茶待夢」。
若いビジネスマン風情の青年が足を止め、胸ポケットから出した小さな紙と、看板をしばし見比べる。


~第三幕~

「……失礼ですが、お名前は、何と仰るのですか」
「名前?んなもんぁ忘れたね。みんなタイムって呼ぶよ。この店の名だ。それかババアとかね。それで充分だろ」

喫茶待夢の狭い店内。カウンター席に、先ほど店先で足を止めていた青年。カウンター内には老婆。

「それじゃあ、タイムさんとお呼びしても?」
「好きに呼びな、注文は」
「ブレンドを」

老婆、コーヒーを淹れ始める。
長い沈黙。

「ブレンド」

青年の前にことりとカップを置く。青年、無言のままコーヒーの香りを楽しみ、ゆっくりと飲み始める。
沈黙。老婆が先に口を開く。

「アンタ、何かを待ってるってわけじゃなさそうだね」

美味そうにコーヒーを啜っていた青年、顔を上げて老婆を見る。
老婆の顔に、一瞬動揺が浮かぶ。

「あんた……」

青年、控えめなふうに口を開く。

「……ええ、そう、ですね……僕は、何かを待っているわけではないみたいです。どちらかというと、タイムさん、待っているのは、貴女の方ではないかと」

老婆、無言のまま。青年、胸ポケットから、店の前で見ていた小さな紙を取り出す。古ぼけた写真。カウンター越しに、老婆に手渡す。

「先日、僕の祖父が亡くなりました。写真の、向かって右がそうです。随分と昔の写真ですが……。タイムさん、この左側の女性は貴女ではありませんか」

老婆、無意識のようにカウンター内の椅子に座る。写真を持つ左手がごく僅か震えている。

「祖母に随分前に先立たれてはいますが、祖父と祖母は仲の良い夫婦でした。……ただ、祖父が晩年、祖母ではない同じ女性ばかりを、毎夜夢に見るのだと言い出したのです。最初は、祖父がぼけ始めたのかと思いました。でも、話を聞いてみるとどうもそうではない。そのうち、祖父は僕にこの写真をくれました。夢に見る女性は、この人だと。
 祖父と彼女は慕い合う仲で、一緒になろうと約束までしていた。けれど、そこそこ裕福な家系だった祖父は、喫茶店の店員である彼女と結婚することは許されなかった。別れを告げることすら叶わないまま、祖父の父親、つまり僕の曽祖父の知人の娘である祖母と見合いをさせられ、結婚することになり、そこから仕事も地方へ変わり、うやむやになってしまったのだと。
 祖父はよく言っていました、彼女が……貴女が、今もまだ同じ喫茶店で、私を待っている気がするのだ、と。
 店の名は……、「喫茶待夢」。
 タイムさん。……いえ、」

「呼ばないでおくれ」

老婆、口を挟む。声が少し震えている。

「似てると思ったんだ……その顔で、呼ばれたら、あたしは駄目だよ」

青年、頷き、冷めてしまったコーヒーを飲む。
カウンターの中、椅子に腰掛け宙を見つめる老婆。しかし、どこかほっとしたような、嬉しそうな表情でもある。

「……捨てられたと思ってたんだよ、大丈夫さ、これっぽちも恨んじゃいない……古い時代だ、身分が違うのなんて、わかってたからね……でも、そうかい、想っていてくれたのかい、あんた」

老婆の目にうっすらと涙。
青年、コーヒーを最後まで飲み干すと代金をカウンターに置き、立ち上がって一礼し店を出て行く。
古びたドアベルががらんと鳴る。


暗転。


再び、路地裏。行き交う人々の足。
しかし「喫茶待夢」の看板は、もうそこにはない。


暗転、幕。


〈了〉


【参照】
◇過敏性大腸症候群 IBSネット
摂食障害(Wikipedia)
その他、摂食障害(メンタルヘルスブログ村)からのリンクを一部参考にさせていただきましたが、個人の症状を特定するものではありません。
また、摂食障害の方を貶めたり興味本位で扱う意図はございません。

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[2014/10/28 21:13] | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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